ラウル・ボベ先生授業

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ラウル・ボベ

ピレネー山脈 1000 m の地の
そしてプリオラートの山奥の僻地で
ワインを造っている造り手だ。
実に 30 年前からワインに関わり、スペイン
ワイン史において重要な位置づけにあるペネ
デスのトーレスで 16 年間醸造に携わった。
ラウル氏と一緒にいると自分は何て落着きが
ないのだろう、といつも恥ずかしく思うほど
仏さまのように微笑みをたたえ、なにものに
も動じず、海のように広く深い知識と経験に
支えられ、物事の真理を見極めようとする
「智慧」を持つ。
それだけ広く深い知識・経験があってそれで
いて全てから自由でいる感じの。

醸造、栽培、ワイナリー設計、経済、食物、、とにかくあらゆることに精通して
いるラウル氏。15年前には 8 年間経済面を絡めたワイナリー設計をタラゴナ県の
ロビラ・イ・ビルジリ大学醸造学部で教えたり、世界的に権威ある醸造・栽培に
関する国際会議に講演を依頼されることもしばしば。
それもあると思う。
頭の中が全て引き出しなっていて、分野ごとにキレイに整理されていて、しかも
引き出しにはカギがかかっていない。そのテーマが取り上げられた瞬間に引き
出しが開き、どんな問いに対しても瞬時に明快な答えが返ってくる。

そんなラウルだからこそ可能だったフィロソフィー。
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雹が降ったり厳しい気候の高標高の地でワイン造りを。

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12 世紀にこの地に住み始めた従軍僧侶
たちが 17 世紀頃まで自然の大岩を削っ
て作った岩の発酵槽でワイン造りをして
おり、ラウルもそれを使ってワイン造り
をやってのける。











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リースリング、ソーヴィニヨン・
ブラン、ピノ・ノワール、シラー
などなど、彼が魅了され、この地
に適植と見なす品種で、この環境
だからこその表現を追求する。









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ラウルにとってはどこでも研究室になる。
お寿司を食べていても、凍結酒がふるまわれると興味をそそられ、
書き始める。化学式や色々を。
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美味しい日本酒を何種類か飲んでいると、書き始め、色々試したくなる。
そんなラウルを見ていると、とにかく質問したくなる、笑。

それは皆さん同じで、色々な方々がした質問へのラウルの回答をここに
少しまとめてみる。

【リースリングのぺトロール香とゴム臭について。】
 - 全くの別もの。
    ぺトロール香は加水分解反応によって生成される炭化水素(=石油)が
   出す香り。リースリングは酸が高い(pH が低い)品種。酸が高いと、より
   加水分解する。よって、リースリングの持つ香りの前駆体に炭化水素を生成
   する分子が多く、その炭化水素が石油のような香りを発する。冷涼な年は
   更に酸が高くなるため、より炭化水素を生成する分子が多くなりよりぺト
   ロール香がしがち。また、貴腐(腐敗)ブドウを使うことで、分解した
   果皮が多くなり、その分解した果皮の香りの前駆体から炭化水素が生成され
   るスピードがより速くなり、若い状態でもぺトロール香がする。
   加水分解は水、酸、時間が必要なので、時が経つにつれてより出てくる。
    ゴム臭は、硫黄系物質由来の臭い。知覚境界値 6ppm = 6mg/L という
   極少量で強く臭う成分。この臭いが発生する原因には 3 つある。
   ① 畑で硫黄散布の量が多い場合
   ② ブドウの栄養素不足 暑い年や高収量などによる
   ③ 固形が多い場合  澱を長い間寝かせる場合など。
    澱や果皮などの固形物が多いと、ワイン中に存在する遊離アミノ酸や
    ビタミン、エルゴステロールが低下し、それが酸化還元電位を高め、
      硫黄系物質が生成され、還元する。

  ぺトロール香に関しては、品種特性ではなくドイツの川沿いの斜面の日照
  量が多く粘板質土壌で水はけがとても良い環境で不足ストレスを感じる
  リースリングに特に出ると張する専門家もいるが、それも1つの要素では
  あるが、加水分解反応が一番の要素だろう。
  ぺトロール香ひとつとっても様々な要素が絡んでいるから一概にこれが
  由来、とは言えない。

【ミネラルとは。】
 - ミネラルの成分がある訳ではないが、関連する要素がある。
    土壌が樹を伝わって感じさせるもの以外の要素として、
  酸の高さ、pHの低さ、スパイシーなニュアンス、ジャミーとは反対の
  特徴(= 冷涼さ)etc。こうしたニュアンスがミネラルを感じさせる。

【アルバリーニョが持つ「塩」のニュアンス。】
 - リースリング同様、アルバリーニョも酒石酸、リンゴ酸、乳酸などの
  酸がとても高く、それがカルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネ
  シウムなどの陽イオンと合体すると塩味が際立つ。若い時よりも時間を
  経るとよりそのニュアンスが出てくる。リアス・バイシャスのように
  海沿いにある産地だけでなく、他のエリアでも塩味は感じられ、アル
  バリーニョの品種特性と言える。海風の影響も一部にあり得るので
  リアス・バイシャスのアルバリーニョに塩のニュアンスが多く見られ
  るのは確かだ。

本当に、、どんな質問にも体系立てて丁寧にわかりやすく説明してくれる
ラウル先生。若い時から偉才を発揮し、実家が農家だったことから、食卓には
いつもワインがあったから自然とブドウ・ワインへと関心が高まり、スペインで
初めてドイツ(エゴン・ミュラー)で収穫の経験を積む。25歳でナパ・バレーの
ハーラン・エステートでも栽培・醸造を務めた。カステル・デンクスのプロジェ
クトは 7 年間、毎週末通い詰め土地を知り尽くした後始めたものだそう。
スペインのワイン界ではラウルのことを現代のレオナルド・ダ・ヴィンチと呼ぶ
人もいる。

いろんな気づきを、もらう。

ミネラルに関していえば、ラウルの言うような要素がよりミネラルなニュアン
スを引き出すのであれば、スペインやイタリア、南アフリカなど地中海性気候の
暖かい産地でも近年過熟しないブドウで抽出の低い、酸がしっかりあり冷涼さの
あるワイン造りがよりされるようになってきているからこそ、より多くのワイ
ンにミネラルのニュアンスが感じられるようになっているのかもしれない。
簡単にミネラルという言葉を多用し、ミネラル = テロワールとは安易すぎるし
ミネラルの質をきちんと感じてあげることが大事なのだ。

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最近ラウルが造ったタイカ。
メトド・アンセストラルの泡。

名称 : Taïka 2011
品種 : Pinot Noir 70%, Semillon 20%
         Riesling 10%
産地 : DO Costers del Segre 
                             (Pallars Llusa)
生産者 : Castell d´Encus

収穫期は他のワイン用と変わらず12%
ほどの潜在アルコール度で収穫。
プレスし、アルコール発酵、途中で糖が
21~26g/Lの時点で発酵を止め、ワイ
ンを2℃に冷却し瓶詰め、発酵が完了し
熟成2年間。

この醸造方法を取ることで、瓶内二次発
酵とは異なり早めにブドウを収穫しない
分、ブドウ本来の香り成分が豊かになる。シャンパーニュは寒いエリアで、しかも早め
に収穫するため、ワインに複雑み、深みを出すにはヴィンテージをブレンドしたり長熟
によるオートリシスが重要となる。温暖さがあり、ブドウがしっかり熟す環境がある
スペインではブドウ本来のピュアさを表現できうる点でこの醸造方法が魅力的だ、
とラウルは語る。
日本語で「大化(変化)」、リトアニア語で「自然」、フィンランド語で「平和」を
意味するという「タイカ」。ラウルらしいネーミングだ。
ブドウの凝縮感と自然の甘み、冷涼地の酸、全てがナチュラルでピュアで、柔らかい
繊細な泡に包まれてバランスが取れている。個性とバランス。

最後にラウル語録を。

『化学は知った上で、化学を使わずにワイン造りに携わることが大事。』

『ワインは文化。詩を楽しむのと同じだ。背景に何があるのか。どんな想いが
こもっているのか。どの場所なのか。そういうことがわかればワインはもっと
楽しい。』

『選択酵母、樽、過熟、未熟、人工酵素、、、ブドウの本質がワインに表現
されるためにはブドウを殺してはいけない。

『静寂はあらゆる中で最上の音である。』

ブドウの本質もだけど、ラウルの人となりもワインには表れている。

ちなみに、ラウルの来日については、色々なご質問をくださり、国や産地関係
なく良いものは良い、と世界中のワインを扱われているイーエックスセラー
さんのブログにも詳しく書かれている。



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