ワインに影響を与える微生物たち。

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お久方ぶりですが、固いテーマでちょっと長くなります!

先週、WSETの学校で「ワインの欠陥」というテーマのセミナーがあった。

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世界中でワイン醸造の経験があり、微生物学研究の大家でもあるアントニオ・トマス・
パラシオス氏が説明してくれて、本当に面白かった!

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ワインを造る基本的な条件としてヴィティス・ヴィニフェラ、土壌、気候、人の手が
フォーカスされがちだけど、その他に酵母という菌が糖と共にアルコール、二酸化
炭素に変わるという「微生物変化」、いわゆる微生物の存在も必要不可欠なのだと
いうこと。
技術がこれだけ発達した現代でもこの微生物に取って替わるものは存在しない、
という。なるほど、ほんとにその通り。パンやチーズ、日本酒、しょうゆ、味噌など
発酵食品はみんなそうだけど、私たちの目には見えないけど、小さな小さな生き物が
働いてくれてるんだなぁ。

そして菌というものは、私たちの環境にはどこにでもいるもので、ワイナリーも
研究所や病院の無菌室のような環境でワインを造っているわけではないため、酵母
以外の菌もたくさんいるし、ワインに悪い影響を与える菌もいる。
こうした「微生物による汚染」は世界中のワイナリーでつきものの問題なのだ。

ワインに繁殖する菌、例えば。

Brettanomyces (ブレタノマイセス) - 代表的な悪影響を及ぼす菌
Lactobacillus (ラクトバチルス) - 乳酸菌
Pediococcus (ペディオコッカス) - 乳酸菌の一種
Acetobacter (アセトバクター) - 酢酸菌
Saccharomyces (サッカロミセス) - これはブドウがワインに変わるための
        大事な良い酵母(菌)

興味深いデータを見せてくれた。
世界的に有名なワインコンクール 「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」。
ここには9000アイテムのサンプルが集まるという。そこで試飲され、欠陥のある
ワインとして評価されたワインは、全体の7.2%だったそうだ。他の業界からしたら、
すごい不良率だ。。

欠陥の内容として
49.3% 栓の欠陥 (コルク臭(ブショネ)、
不適切な栓による酸化、硫黄、メルカプタン)
33.9% 化学的な欠陥(還元硫黄、酸化、SO2過量添加、褐色化)
16.8% 微生物による汚染(ブレタノマイセス、腐敗、その他)

その中で、重要な問題として3つ、まとめてみる。

【コルク臭・味(ブショネ)】

原因はコルクのオーク材、ブドウ、その他、植物に広く存在するフェノール類と
カビと塩素類(コルクを洗浄するために使う)が反応して生成されるトリクロロ
アニソール(TCA)が出す異臭。
ただ大事なのは、これはコルク自体のせいではないのに「コルク臭」と呼ばれてし
まうことも多いこと。コルクの側面部の滑走を良くするために塗るパラフィン、
シリコンの品質によっても、微生物によって汚染されてしまう場合も。
また、ワインの樽の中やパッケージのダンボール、瓶詰め前の空のワインボトルの中、
ワイナリーの建築材などにTCAを生成するカビが存在する管理の悪いワイナリーで
起こる。コルク自体は全くもって健全でも、TCAが生成される要素が醸造所内に
あれば、TCA汚染されることも十分にある。

パラシオス氏がアラゴン州で実験的に栽培するピノ・グリジオ100%のロゼワインで
比較試飲(臭)。樽熟なしの若飲みワイン。

① 見本ワイン
     淡い色調。熟れていないバナナ、ペッパーなどの華やかな香り。
     スパイシーさも。甘み。グリセリン。

② +3 nanog/ℓ TCA(トリクロロアニソール)
     香りでは感じない。でも、華やかな果実の香り、スパイシーさ、など
 際立たず、平坦な感じになっている。バナナなど感じない。
 味もすぼんでる。アルコールを①より感じる。
      ブショネ、とはわからなくてもこの状態はもうブショネなんだなぁ〜。。

③ +6 nanog/ℓ TCA(トリクロロアニソール)
     淀んだ水。湿っぽさ、カビっぽい臭い、がする。

④ +9 nanog/ℓ TCA(トリクロロアニソール)
  果実、甘み、爽やかさなど全くない。

⑤ +15mg/ℓ グアヤコール
     バンドエイド、黒くなったバナナ ②〜④の臭いとは全く違う。

コルクをスクリューキャップや合成樹脂のキャップに替えれば済む問題ではなく、
スクリューキャップでもベジタル、ゴムのような不快臭のするケースも多くある
ことから、原因が実際にどこにあるのか、しっかりと見極める必要があるのだな。
コルクの不良によって発生する「コルク臭」と、栽培時や醸造時にカビが混ざって
起きる「カビ臭」がいっしょくたにされている。

【ブレタノマイセス】

セミナーの日、会場のあるビルに入った瞬間、館内中に異臭が立ち込めていた。
なんというか、足の裏の臭い。それが「ブレタノマイセス」。
授業用に使う「ブレタノマイセス」のボトルが割れてしまったのだそうだ、笑。

ブレタノマイセスとは、酵母の種類の一つで、ワインの香りに悪い影響を与えると
される代表的な菌で、ワインメーカーのほとんどが問題視している微生物。
ワインに土っぽい、動物っぽい臭いを与えてしまう。酸化しても飛ばないため、
デキャンタージュは無意味。よく言われていたのは、古樽の中にこの微生物が住み
着いていて、古樽で熟成したワインにこういう臭いがするということだったけど、
実際はブドウの実自体やいたるところにいるのだそうだ。

ブレタノマイセスが生成する物質は以下の3種類でそれらが臭いを出している。

4−エチルフェノール(4EP)馬小屋、納屋、革、動物、汗でぬれた鞍などと
     表現される香り。
3−メチル酪酸(IVA)馬の香り。
4−エチルグアヤコール(4EG)逆にスパイシーと評されたり、薫香と評されたり
     肯定的な香りとして受け止められている。

試飲(臭)ワイン

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名称 : Tres Picos 2008
品種 : Garnacha 100%
産地 : DO Campo de Borja
生産者 : Bodegas Borsao

① 見本ワイン  カンポ・デ・ボルハの「トレス・ピコス」
      熟した果実、フランボワーズ、カシス、アーモンド、トースト。

② +450microg/ℓ Vynil-fenol (ビニルフェノール=ブレタノマイセスの
前駆物質) ゴム、トーストの臭い。悪くない香り。

③ +45microg/ℓ Vynil-guaiacol (ビニルグアヤコール=ブレタノマイセスの
前駆物質)
      薬、クラーブ、灰っぽい香り、色んなワインで嗅いだことのある臭い。
      樽熟の良い香りと思いがちな香り。

④ +1mg/ℓ エチルフェノール+エチルグアヤコール
      タイヤ、革、馬

⑤ +?? THP(テトラ ヒドロ パパベロリン)
(マウスとヒトの体内で生成されることが知られている脳内化学物質)
   いわゆる「ネズミ臭・味」と言われる。苔が生えた切り株、動物の
死骸のような(?) 臭い。タンニンは破壊され、何も他に臭わない。
100年以上の古い樽を使ったワインにこういう臭いする。

4EGの臭いは肯定的に受け止められている、と、ブレタノマイセスの中にも悪い
影響を与えない物質の種類もあり、実際、ワインメーカーによってはブレタノマイ
セスを活用して、ワインの特徴として認めようとする動きもあるそうだ。
複雑な問題なのだ。

【揮発酸による不快臭(酸化臭)】

発酵によって生成される菌、酢酸や酢酸エチルの過多、また、発酵の最後の段階で
アルコールが酸化することで生じる成分アセトアルデヒド(これが更に酸化されると
酢酸に変わる)による不快臭。

酢酸は酢の香り
酢酸エチルは除光液、ネイルリムーバーの香り
アセトアルデヒドは生臭い香り

試飲(臭)ワイン

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アントニオ氏がアラゴン州で実験的に栽培するマルベック100%で造る
赤 2010 ビンテージ。
樽熟なし若飲みワイン。            

① 見本ワイン 
    紫がかった、中程度の色調。果実味はそこまでなく、スパイシーさ、
ピーマン、コショウ、ヨーグルトなどの香り。タンニン少なめ、樽熟して
ないけどトースト香を少し感じる、典型的なマルベックの特徴。

② +35mg/ℓ アセトアルデヒド
    熟した果実の感じは全くない。ベジタル、未熟のりんご、酒精強化っ
ぽい感じも。
    未熟のブドウで造られたワインでは、と思ってしまいがち。確かにそうだ。。

③ +0.8g/ℓ酢酸
    酢の臭い。触感的にも破壊されてしまっている。香りだけだとそこまで強く
ないけど、飲むと更によくわかる。舌の両側がぴりっとする。
    ①で感じる果実、スパイシーさなど全くない。

④ +100mg/ℓ 酢酸エチル
    ネイルリムーバーの臭い。大工のにかわ、エナメル(laca)

⑤ +酢酸+酢酸エチル
    接着剤、酢の強烈な臭い。

こうした酸化作用は一概にワインに悪影響を及ぼすとは言えず、不快と感じる量が
入っている場合に悪影響を及ぼす。そのレベルに達しない量の場合は、ワインの
香りを豊かにすると見なされている。その好みの量は人によって違うし、国ごとに
ワインに許容される揮発酸の量は異なるという事実からも、自分の合うレベルって
のを知ることが一番重要な臭いなのだ。

アセトアルデヒドは、SO2を入れないとワインにアセトアルデヒドが発生しやすく
なるそうだ。また、悪酔い、二日酔いになる原因もこのアセトアルデヒド。
SO2 はそのアセトアルデヒドを抑制するため、亜硫酸無添加ワインが一概に良い
ものなのか、ということにもなる。

その他、ブドウ品種、例えば、シラー、テンプラニーリョ、ガルナッチャ、マカベオ
などが還元しやすいのは、システインというアミノ酸が多く含まれるから、ソーヴィ
ニョン・ブランにはメチオニンというアミノ酸が豊富で、ワインにとってはプラスに
働く酸で、グレープフルーツなどの果実の香りのもとである、など、非常に興味深い
セミナーだった。

人間の感覚器の中で最も発達している嗅覚。
その嗅覚を慣らせばワインはもっと深くなる。ワインに悪影響を与える要素を知る
ことで、よりワインを楽しむことができる。

もっとワインのことわかるようになりたいものだっ。

【追記】

後日、ツイッターを通じてご質問をいただきました。

本文の「例えば、シラー、テンプラニーリョ、ガルナッチャ、マカベオなどが還元し
やすいのは、システインというアミノ酸が多く含まれるから」について。

「最後の方に「還元しやすい品種」が示されていましたが、自然界で還元って起こる
のでしょうか?微生物による影響なら理解できますが、品種による違いは何に依存
するか解説はありましたか?アミノ酸が還元されやすいということなんでしょうか?
それは自然に?」

私も化学的なことはちゃんとわかっておらず、再度アントニオ先生に伺ってみたところ、
以下の回答をいただきました。訳をつけてみましたが、ちゃんと理解できる文になって
いるといいのですが。。。

「La cisteina es un aminoacido que tiene azufre en su constitución.
Al ser descompuesto por la levadura fermentativa, esta lo expulsa al vino
como sulhidrico (SH2). Desde ese momento el vino camina hacia la reducción.
Primero como mercaptanos y después como sulfuros. Se podría decir entonces
que si se trata de un proceso natural. Ocurre en uvas y variedades pobres
en nitrógeno asimilable, como las que mencionas. Al quedarse sin nitrógeno,
la levadura no tiene mas remedio que metabolizar la cisterna, que es el
ultimo recurso.

システインは硫黄を多く含有する含硫アミノ酸です。発酵を促す酵母によりこのシス
テインが分解されると、硫化水素(SH2)が生成されます。その時点からワインの中で
還元が始まります。はじめはメルカプタンとして、その後硫化物として。よって、
還元は自然に起こると言えます。窒素同化が乏しい品種に起こりやすいです。
そうした品種では窒素がなくなると酵母はシステインを多く生成せざるをえなくなり、
それが還元の原因となるのです。」

Winolemondeさん、ありがとうございました!

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コメント(5)

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実践的な知識とは、こういう教え方で身につくんですね。街にあふれるワインのうんちく本より、ずっと勉強になりました。

自分ももっと嗅覚を鍛えなくては(汗)…
この授業のレベルには到底できませんです。

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>やあさん、温かいコメントありがとうございました!難しい化学の
テーマもわかりやすく教えてくれた先生が良かったです。
私も嗅覚まだまだです。。
比較するからわかるものの、1本だけ出されてこれらの臭いを正確に
識別できるかは、また別問題です、笑。
ワインは深いですねぇ〜。

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ブラボー!!以前からずっと身をもって体験してみたかったテーマの一つで、こんなにタイムリーな記事(?)に感謝感謝。

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ペペ、ワイン好きには気になるテーマやね!
まだまだわからないことだらけだわ〜。。

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