トーレスを支えてきた醸造家 ラウル・ボベ氏が新天地で造る珠玉の白たち 「カステル・デンクス」

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スペインの環境でリースリングやピノ・ノワールなど北のブドウで良いワインが造れる、とは
今まで飲んできた中ではなかなか納得できていなかった。この造り手に出会うまでは。。。

去年から日本に入っているフェレール・ボベは、スタンダードキュヴェ2005ビンテージが
スペインの最も有名なワイン専門誌「シバリタス」2009年4月号で、2008年のワイン・オブ・
ザ・イヤーに輝き、一気に注目され入手困難になったことは記憶に新しい。

造り手は、
ラウル・ボベ氏。
あまり聞いたことがない名前だけど、あのスペイン一有名な生産者トーレスで16年以上醸造
責任者として活躍してきた人物だ。

そのラウル氏、出身地であるカタルーニャ州ジェイダ県の標高1000mの土地で新たなワインを
造り始めた。世界的な温暖化に対応するため、自分の目指すスタイルのワインを造るために、
標高が高く冷涼なだけでなく、ブドウがきちんと成熟する環境があるか、日照量、ミクロ
クリマ、土壌、全てに納得できる場所を見つけたかった、とラウルさん。

カステル・デンクス」というワイナリー。

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DOとしてはコステルス・デル・セグレに当たる。
同じDOと言っても、地図でわかるように大きく5つの地区に分かれていて、それぞれ特徴が異なる。
カステル・デンクスが位置する最北のパジャルス・ジュサという地区は、ピレネー山脈手前の
山の斜面にあり、気候も環境も他の地区と全く異なる。本当は同じDOとしないほうがいいの
だろうが、このパジャルス・ジュサ地区にはワイナリーが3つしかなく、独立したDOにはなり
得ないとのことで、コステルス・デル・セグレに属しているのだそうだ。

2008が初ビンテージの新しいワインたち。
最初にリリースされたのがリースリングとソーヴィニョン・ブランの二つの白だった。

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名称 : Taleia 2008
品種 : Sauvignon Blanc 80%, Semillon 20%
産地 : DO Costers del Segre
生産者 : Castell d’Encus

これを初めて飲んだ時、ショックを受けた。スペインでこういう白ができるのか、と。。
なんでかわからないけど飲んだ瞬間小さい頃新潟でつららを舐めて遊んでいたことが頭をよぎった。
この素晴らしい酸、北のソーヴィニョンの印象、ミネラル、複雑さ、ポテンシャル。。
セミヨンが少しブレンドされていることで口の両側で感じるが酸がキレイで、色んな料理に
合わせやすい白。ブドウの30%をフレンチオーク樽で5か月ほど熟成させている。
生産量約8000本。

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こんな場所にある。

北の地で標高が高いため、雹や氷結、霜の被害のリスクも高い。
「標高が高いから良いワインができるというわけではない。逆に難しいことのほうが多い。
完璧に適した場所を選ばないと良いワイン造りはできない。収穫期は雨が多いので、いつも
斜面を選ぶ必要がある。温度、日照量のバランスが完璧でなければならない。未熟の状態に
なるケースが多い。剪定、接木、栽培方法など、非常に注意を払ってやる必要がある。」
とラウルさん。
本当に厳しい環境で栽培・醸造に両方に深い知識・経験がないとできないということを実感。

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冬にはこんなに雪が降る。

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ラウルさん。
95haの敷地内に、林を多く残し、23haを畑にし、南向きの斜面に畑があり、北風からブドウ樹を
守る。栽培品種はアルバリーニョ、リースリング、ソーヴィニョン・ブラン、セミヨン、
ピノ・ノワール、シラー、メルロ、カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、プティ・
ヴェルドなどを栽培。その他、チャレッロ、ガルットなどの土着品種も試験栽培している。
殺虫剤、化学肥料は一切使わない自然派。

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醸造設備は最新のものを揃え、重力を利用した設計。ワイナリーとしては初めての、4kmに
及ぶ管を地中に埋め地熱発電を行い、省エネ・環境保護にも力を入れる。

名称 : Ekam 2008
品種 : Riesling 82%, Albariño 18%
産地 : DO Costers del Segre
生産者 : Castell d’Encus

そしてリースリング主体の「エカム」。
間違いなく今まで飲んだスペインのリースリングで一番。

ボリューム感と共にドイツのリースリングのようなシャープな酸とエレガンスがある。。
素晴らしい。。。
アルコール度12.9%、総酸度7.6g/l、pH 3.13
スペインでは驚きのデータ。。

興味深いのは一部のリースリングが貴腐化したため、1%分の貴腐ブドウを低温熟成し、
ブレンドしている。アルバリーニョは、リースリングが腐敗に弱く、失われてしまう
フローラルな部分を補う役割を果たしているそうで、ビンテージによって割合は変わる。
抜栓してそのままコルクをして保管した状態で14日経ったものも試飲させてもらったけど、
その素晴らしいポテンシャルには驚いた。

「エカム」サンスクリット語で「unidad de los dioses 神々の一体性(エネルギー)」の意。

ラウル・ボベという人。
天才ってこういう人のことを言うのかな、と思う。とにかくあらゆる分野において博識で、
何を聞いても論理的に丁寧に答えてくれる。ラウルさんの魅力はその聡明さと共存する
温かい心、寛容さ、謙虚さ、素朴さ、少しシャイな部分。いつもにこにこ笑顔で穏やかで。
本当に懐の深い方。
小さい頃、神学者だった叔父さんの影響を受け、カトリック、仏教などの宗教を超えた
ところにある思想、あらゆる宗教の根本にある共通する部分、自然界に精神的価値を見出す
アニミズムなどに傾倒したそうだ。当然のことながら東洋思想もよく知っていて、禅思想、
日本の伝統的な文化などは大好きだそうだ。
だから「エカム」という名前をワインにつけたり。

そんなスピリチュアルなラウルさんだから、ワイン造りにこの場所を選んだもう一つの理由が、
この場所の歴史。
実はこの地、12世紀から従軍僧侶たちが住んでいた修道院や見張り塔がある。
「カステル・デンクス」はその塔の名前。その僧侶たちによってブドウが栽培され、ワイン
造りがされていた記録があるという。少なくとも1752年まで住み続け、ワイン造りが続いて
いたようだ。その僧侶たちが発酵に使っていたのが自然の岩を削り掘って作った岩の発酵槽だ。

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ぽっかりと穴が開いた部分が発酵槽。その形がワイナリーのロゴマークにもなっている。

Castell_dEncus_15022010 054_ブドウ踏み桶、発酵槽
すごい。。
斜面の大岩を発酵槽として使うことで、重力フローの醸造方法がこの当時から行われていた。
昔の人の知恵ってほんとにすごいと思う。
ラウルさんはこの岩の発酵槽で一部のブドウを発酵し始めている。
白の他に赤ワインも造っていて、現在は一部の黒ブドウの発酵に使っているが、今年からは
白ブドウも一部岩の発酵槽でやるという。木製バット、ステンレスタンク、そしてこの岩の
発酵槽の3つで発酵し、ブレンドする。岩は、無味無臭のものではなく、有機物があり
何らかの味がする物質。だからワインにミネラリーさを与えてくれる、とラウルさん。
岩の発酵槽を使ってワインを造る造り手はヨーロッパで唯一だそうだ。

ラウルさんに関して、トーレスのワインのイメージは取っ払うべき。
ラウルさんが求めるワイン「「sutileza(繊細さ)」を持つワイン。たくさん主張するのではなく、
存在するかしないかわからない、でも存在する、そんなワインを造りたい。」
エカム、タレイアからそれがとても良く伝わる。

この8月、そのラウルさんがフェレール・ボベとカステル・デンクスを携えて日本に来日、
プロの方々にワインを紹介された。両方のワインを扱うワイナリー和泉屋が主催した会。
ワインジャーナリストの山本明彦氏も詳しく書かれている。

今年リリースされた初めてのシラー赤「タラルン」の他に、カベルネ・ソーヴィニョンと
カベルネ・フラン、プティ・ヴぇルドのブレンドやピノ・ノワール100%なども造っていて、
素晴らしいクオリティで、これからがほんとに楽しみだ。

raul.jpg
スペインのワイン界では誰もが一目置く存在のラウルさん。
その聡明さと謙虚さでみんなから慕われている。
温かい人柄、いつも絶やさない心の底からの笑顔で私もやっぱりノックダウンされてしまう、笑。


【追記】
ワイン専門誌「ヴィノテーク」2010年9月号にてソムリエ、ワインタレント、料理評論家である
田崎真也氏のテイスティングコメントが載っているのでご紹介。

「Ekam 2008
色調はグリーンがかった明るいイエロー。香りは華やかで、かりんや黄桃、あんずなどの
コンポートや金木犀の花、ほのかにミネラル香などが調和。味わいはまろやかな果実味から
広がりはシャープな酸味を感じ、余韻はフレッシュ感が長い。
マリアージュ : 帆立貝のクリームソースを使った料理など」

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